~社長の妻への年2,400万円、認められたのは約130万円(東京地裁平成22年9月10日判決・東京高裁平成23年2月24日判決)~

社長の奥さまを役員にして報酬を払っている会社は、珍しくありません。ただ、その報酬が「役員としての仕事の対価」と言えるかどうかは、税務上はかなり厳しく見られます。今回は、焼酎メーカーの社長の妻への報酬が争われた裁判例を取り上げます。
1. 記事のポイント
社長の妻(取締役)に年2,400万円の役員報酬を支払っていた焼酎メーカーで、妻の出社は月1~2回程度だったことから「非常勤の役員」とされました。同業・同規模の会社の非常勤役員の平均額(年約130万円)を超える部分は「不相当に高額」として、損金にならないと判断されています。報酬の適否は、肩書きや家族としての貢献ではなく、役員としての勤務状況と職務内容で判断されます。
2. 対象となる方
配偶者など家族を役員にして報酬を払っている同族会社、とりわけ、その家族役員の出社が少ない会社や、担当業務がはっきりしていない会社です。
3. 詳細解説
判決当時の法人税法34条は、役員報酬のうち「不相当に高額な部分」を損金に算入しないと定めていました。実際には賞与にあたるものを、報酬の名目で役員に払う「隠れた利益処分」を防ぐための規定です。高額かどうかは、職務の内容、会社の収益や従業員の給与の状況、同業・同規模の会社の役員報酬の状況などに照らして判断されます(定款や株主総会で定めた限度額を超える部分も対象ですが、この事案では限度額は超えていません)。
妻は「非常勤の役員」とされた
鹿児島県で焼酎を製造する同族会社が、社長の妻である取締役に月額200万円を払っていました。裁判所が認めた勤務の実態は、次のようなものです。
出社は月1~2回程度。日が決まっているわけではなく、社長や従業員から頼まれたときに出ていた
本社事務所に妻の机はなく、組織図にも名前がない
取締役会などへの出席は各事業年度1~3日、接待への出席は各事業年度7~14日程度
経営方針の決定、製造販売、資金繰り、経理には直接関わっていない
会社側は、妻が従業員の悩みを聞く場を設けていたこと、取引先との会合や接待をこなしていたこと、社宅2棟の建築を取り仕切ったことなどを挙げて、常勤の役員だと主張しました。
裁判所はいずれも認めていません。精神的なサポートは、具体的に何をして、どれだけ時間を使い、会社にどう影響したのかが分からない。接待は、営業上の効果は推測できるものの、日数が極めて少ない。社宅は社長家族などの住まいで、家族の生活のためという面もある、という判断です。
印象的なのは、「妻は日常生活でも社長を支えている」という主張への答えです。裁判所は、それは配偶者として夫の活動に協力するもので(民法752条参照)、役員としての職務の対価とは評価できない、としました。
比べる相手は、同業・同規模の会社の非常勤役員
適正な報酬額は、熊本国税局管内(鹿児島・熊本・大分・宮崎)から、同じ種類の焼酎を主に製造し、売上高が0.5倍~2倍の範囲にある会社などを選び、その非常勤役員の平均報酬額とされました。
会社は「社長の妻が役員になっている会社と比べるべきだ」とも主張しましたが、退けられています。親族への過大な報酬こそ隠れた利益処分の典型で、そうした会社だけと比べると、比較の相手の報酬自体が高くなってしまうおそれがある、という理由です。
事業年度 | 支給額 | 裁判所が認めた適正額 |
|---|---|---|
平成16年5月期(4か月) | 800万円 | 36万6,200円 |
平成17年5月期 | 2,400万円 | 130万9,022円 |
平成18年5月期 | 2,400万円 | 123万4,545円 |
高裁は報酬の「行き先」にも触れた
控訴審では、もう一歩踏み込んだ事実が出てきます。妻の報酬は月50万円から100万円、200万円へと上がっていましたが、担当業務に目立った変化はありませんでした。しかも銀行振込されていたのは毎月20万円程度で、残りは社長が現金で受け取り、生活費や投資に回していました。妻は給与明細書も受け取っていません。
高裁は、適正額を超える部分は妻の仕事の対価というより、実質的には会社の利益処分、つまり損金にならない役員賞与として払われた面が大きい、と結論づけています。
4. 実務上の留意点
この裁判例で決め手になったのは、取締役という肩書きではなく、実際の勤務の中身でした。家族としての支えがどれほど大きくても、それは役員報酬の根拠にはなりません。仕事が変わらないまま報酬だけを上げたり、報酬が本人の手元に届いていなかったりすれば、なおさら利益処分と見られやすくなります。
実務では、何を残しておくかが重要です。まず見られるのは、やはり出勤の実態です。出勤日時の記録がなく、組織図にも載っておらず、専用の机もない。こうした状態では、報酬が不相当であることを簡単に立証されてしまいます。あわせて、事業報告書や提案書、調査書、議事録など、その役員の貢献が分かる書面を、税務調査の前に作って保存しておくことが大切です。
非常勤の家族役員については、私は「非常勤役員業務担当調書」のような形で、次の内容を書面に整理しておくのがよいと思います。
役職名、就任日、他の勤務先・役職、会社との関係
会社への出資や貸付け、担保の提供、保証人の引受けの有無
担当業務、役員会への出席状況
報酬の支給時期・金額・方法、株主総会等での決定
この書面には、履歴事項全部証明書や議事録、出席表のコピーも添付しておきます。
なお、家族を監査役にしている場合も、考え方は同じです。監査役報酬の一般的な目安は、常勤で約500~1,500万円、非常勤で約100~500万円言われています。常勤監査役(目安として週3日の出勤)とするなら、組織図や座席表への記載、出社状況の管理、執務内容の報告書などを、求められたときに出せるようにしておきたいところです。


