【税務調査対策】最近話題の新収益認識会計基準は、中小企業にも影響? 税のお役立ち情報

企業会計基準委員会は、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」と企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、両方合わせて「収益認識に関する会計基準等」とします)を、2018年3月30日付で公表しました。

そこで、この「収益認識に関する会計基準等」が、中小企業の税務にどう影響するのかについて、検討していきます。

 

【返品調整引当金制度,長期割賦販売等の延払基準は廃止】

新たな収益認識会計基準等が策定されることを踏まえ、税務上も対応が図られます。

平成29年12月14日に決定した平成30年度与党税制改正大綱では、収益の認識「金額」と「時期」を法令上明確化するとともに、返品調整引当金制度長期割賦販売等の延払基準経過措置を設けた上で廃止るとしました。

収益の認識「金額」と「時期」の取扱いは、上場会社等が対応するものになるので、中小企業に影響を及ぼすことはない方向とされています。

一方で、返品調整引当金制度、長期割賦販売等の延払基準については、中小企業も含め例外なく廃止となるため、一定の影響が出そうです。

 

複数の履行義務の収益計上,値引き・割戻しは、消費税のみ別扱い

上場企業などにおける収益の認識「金額」と「時期」を変える可能性がある収益認識会計基準等が公表されており、3月決算法人の場合、平成31年3月期からの早期適用が可能となる方向です。

これを踏まえ、税務上の対応が平成30年度与党税制改正大綱において示されています。

 

具体的には次のように対応が図られます。

<収益の認識「金額」>

収益の額として所得の金額の計算上益金の額に算入する金額

資産の販売、譲渡原則,その販売若しくは譲渡をした資産の「引渡しの時における価額」
役務の提供原則,その提供をした役務につき「通常得べき対価の額」に相当する金額
この場合において,「引渡しの時における価額」又は「通常得べき対価の額」は, 「貸倒れ」 又は 「買戻し」 の可能性がある場合においても,その可能性がないものとした場合の価額とする。
(注)資産の販売等に係る①収益の額を「 実質的な取引の単位に区分して計上できる 」こととするとともに,②「 値引き」及び「 割戻し 」について,客観的に見積もられた金額を収益の額から控除することができることとする。


主に現行の取扱いを明確化したものですが、ここでまず注目されるのが、(注)の記載です。

収益認識会計基準等では,履行義務が複数あるとされた場合(例えば,機械装置の販売と保守サービスの提供等)、それぞれ異なるタイミングで収益計上することとなりますが、(注)①により、これを法人税も容認することになります。

また、収益認識会計基準等では、取引の対価に変動性のある金額が含まれる場合、その変動部分の額を見積り、認識した収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高い部分に限り収益を認識することになりますが、(注)②により「値引き」、「割戻し」については、会計上の収益を法人税も容認することになります。

ただし、消費税については、現行の取扱いを変えない方向とのことで、(注)①②の取扱いは、会計と法人税が一致する一方で、消費税とは別扱いで一致しなくなります。


他方で,会計上の収益を容認しない取扱いもあります。

すなわち、大綱では「貸倒れ」又は「買戻し」の可能性がある場合においても、その可能性がないものとした場合の価額とするとしており、この点については、法人税は会計上の収益を容認しないようです。これは消費税も同様ということです。

 

<収益の認識「時期」>

収益の認識「時期」も法令上明確化されます。具体的には,①原則と②一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って経理した場合の取扱いが以下のように示されました。


収益の認識「時期」

① 原則 
 資産の販売等に係る収益の額は,原則として目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入する。
② 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って経理した場合 
 資産の販売等に係る収益の額につき一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って ① の日に近接する日の属する事業年度の収益の額として経理した場合には, ① にかかわらず,当該資産の販売等に係る収益の額は,原則として当該事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入する。
                                                                   

収益認識に関する会計基準等では、国内の販売において、出荷時から商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が「通常の期間である場合」、出荷時等に収益を認識することができる代替的な取扱いが設けられており、一定の場合、出荷基準等も容認されますが、これらの取扱いについても法人税において容認されるということのようです。

 

返品調整引当金制度,長期割賦販売等の延払基準は中小企業も廃止

新会計基準で認められない返品調整引当金制度、長期割賦販売等の延払基準は法人税においても廃止されます(長期割賦販売等の延払基準は消費税でも廃止)

この点については、中小企業でも同様となるため、一定の影響が考えられます。

他方で、以下のように一定の経過措置が設けられており、既にこれらの制度を利用している法人については、平成30年4月1日以後も一定期間は、これらの制度の適用等が認められることになります。

 

返品調整引当金制度の経過措置

対象法人平成30年4月1日において返品調整引当金制度の対象事業を営む法人
経過措置の内容① 平成33年3月31日までに開始する各事業年度については現行どおりの損金算入限度額による引当てを認める 
② 平成33年4月1日から平成42年3月31日までの間に開始する各事業年度については現行法による損金算入限度額に対して1年ごとに10分の1ずつ縮小した額の引当てを認める等
                                                                   
対象法人平成30年4月1日前に長期割賦販売等に該当する資産の販売等を行った法人
経過措置の内容① 平成35年3月31日までに開始する各事業年度について現行の延払基準により収益の額及び費用の額を計算することができる 
② 平成30年4月1日以後に終了する事業年度において延払基準の適用をやめた場合の繰延割賦利益額を10年均等で収益計上する等 
(注) ファイナンス・リース取引並びに関西国際空港及び大阪国際空港に係る公共施設等運営権の設定の対価については,現行どおり
                                                                   

消費税における長期割賦販売等に該当する資産の譲渡等について延払基準により資産の譲渡等の対価の額を計算する選択制度の経過措置

対象法人平成30年4月1日前に長期割賦販売等に該当する資産の譲渡等を行った事業者
経過措置の内容① 平成35年3月31日までに開始する各年又は各事業年度について現行の延払基準により資産の譲渡等の対価の額を計算することができる 
② 平成30年4月1日以後に終了する課税期間において延払基準の適用をやめた場合の賦払金の残金を10年均等で資産の譲渡等の対価の額とする等 
(注) ファイナンス・リース取引については,現行どおりとするとともに,その他所要の措置を講ずる。
                                                                   

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