
近年、相続税対策として活用されてきた「貸付用不動産の取得」による節税手法について、令和8年度税制改正大綱において評価方法の見直し方針が示されました。取得から間もない物件の評価を「時価(取得価額)」に近づける内容です。
以下、現行の仕組みとの違いおよび影響を整理します。
相続税の計算では財産を「時価」で評価するのが原則ですが、不動産については「財産評価基本通達」に基づく評価額が適用されます。
貸付用不動産の場合、借地権割合や借家権割合が差し引かれるため、実際の取引価格よりも評価額が低くなる傾向があります。今回の見直しは、この時価と評価額の乖離を利用した過度な節税を抑制することを目的としています。
【現行の評価方法による圧縮効果の例】
現金2億円・土地1億円(合計3億円)を保有し、その土地に2億円の賃貸建物を建てた場合:
| 財産の種類 | 評価方法(概算) | 評価額の目安 |
|---|---|---|
| 建物 | 固定資産税評価額×60%(1-借家権割合30%×賃貸割合100%) | 約8,400万円 |
| 土地 | 自用地評価額×(1-借地権割合60%×借家権割合30%×賃貸割合100%) | 約8,200万円 |
| 合計 | 約1億6,600万円(1億3,400万円の減) |
※借地権割合60%、賃貸割合100%、建物の固定資産税評価額を建築価額の60%と仮定
改正案では、相続開始前または贈与前5年以内に対価を伴って取得した貸付用不動産について、従来の計算ではなく「通常の取引価格」をベースに評価することとされます。
原則として取得価額を基に算定しますが、課税上の弊害がない限り、取得時から課税時期までの地価変動等を考慮して計算した価額の80%で評価することができるとされています。建物の場合は、減価償却後の金額と取得価額の80%相当額のいずれか少ない方となると考えられます。
※詳細な算定方法は今後公表される通達により確定します。
【計算例:鉄骨造の建物を2億円で建築・取得した場合】(耐用年数34年、償却率0.030)
3年経過時に相続が発生した場合:
現行の評価であれば約8,400万円となるところ、新ルールでは1億6,000万円となり、評価額の圧縮効果は大幅に小さくなります。
適用開始: 令和9年(2027年)1月1日以後の相続または贈与
対象となる不動産:
対象外となるケース:
今回の見直しは 令和9年(2027年)1月1日以後の相続開始または贈与日から遡って5年間の取得分に適用されますが、「通達に定める日」までに、被相続人等が同日の5年前から所有している土地の上に新築した建物や、現在建築中の建物については、従来通りの評価が適用される予定です。なお、対象となる建物は賃貸住宅に限らず、賃貸している店舗・倉庫・ホテル・工場等も含まれます。
現物不動産を小口に分けて所有する「不動産小口化商品(任意組合型など)」についても、見直しの対象となります。
令和9年1月1日以後の相続・贈与については、取得時期にかかわらず通常の取引価格に近い水準での評価に見直されます。取引価格の参照先としては、販売会社が提示する適正な処分・買取価格等、売買実例価額、定期報告書等に記載された価格などが検討されています。具体的な評価方法は今後の通達により確定します。
現時点では改正の大枠が示された段階であり、細かな運用については今後の通達の公表を待つ必要があります。実務上、以下の点が注視されます。
令和9年1月1日以降に相続が発生する場合、直近5年以内に取得した物件は新ルールの対象となります。不動産を活用した対策を検討されている方や、直近数年で物件を取得された方は、評価額の再確認をお勧めします。
※本記事は令和8年度税制改正大綱の内容に基づいています。具体的な評価方法は今後公表される通達により確定するため、実際の運用にあたっては通達および詳細な規定を必ずご確認ください。
