
「会社のために自分の資産を安く譲った。それなのに子どもに贈与税がかかる!?」
同族会社の経営者からこのような相談を受けることがあります。本記事では、実務上特に重要な「株主へのみなし贈与課税」について解説します。
みなし贈与課税が発生する仕組み
基本的なメカニズム
同族会社に対して財産を無償または著しく低い価額で譲渡すると、会社の純資産が増加し、結果として株式の価値が上昇します。この株式価値の上昇により利益を受けた株主に対して、原則として贈与税が課税される可能性があります。
図解:課税の仕組み
【譲渡前】
個人A ─所有→ 土地(時価1億円)
会社B(純資産3億円) ← 株主C(持株30%) 株式価値:9,000万円
【譲渡後:5,000万円で売却】
個人A ← 5,000万円
会社B(純資産3.5億円) ← 株主C(持株30%) 株式価値:1.05億円
↑受贈益5,000万円
※会社Bは時価1億円の土地を5,000万円で取得したため、差額5,000万円が「受贈益」として計上され、純資産が3億円→3.5億円に増加します。
★株主Cの株式価値が1,500万円増加
→ 個人Aから株主Cへ1,500万円の贈与とみなされる
課税根拠
相続税法第9条および相続税法基本通達9-2により、以下のような取引があった場合、株主に贈与税が課税されます。
- 会社に対して無償で財産を提供した場合
- 時価より著しく低い価額で現物出資があった場合
- 対価を受けないで会社の債務の免除、引受け、弁済があった場合
- 会社に対して時価より著しく低い価額で財産を譲渡した場合
実務論点1:「著しく低い価額」の判断基準
法令に明確な基準はない
最も実務上問題となるのが、「著しく低い価額」をどう判断するかという点です。相続税法では「著しく低い価額の対価」という文言が使われていますが、具体的な金額基準や割合については法令・通達で一切定められていません。
裁判例に基づく判断基準
東京地裁判決(平成19年8月23日)では、以下のような判断基準が示されています。
時価の意味
時価とは、客観的交換価値、すなわち不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額を意味します。
「著しく低い価額」の判定方法
「その対価に経済的合理性のないことが明らかな場合」を「著しく低い価額」と解釈し、個々の財産の種類・性質、取引の実情等を勘案して、社会通念に従い判断するとされています。
相続税評価額との関係
判決では、「相続税評価額と同水準の価額かそれ以上の価額を対価として土地の譲渡が行われた場合は、原則として『著しく低い価額』の対価による譲渡ということはできない」とされています。
ただし例外として、「相続税評価額が時価の80%よりも低くなっており、それが明らかであると認められる場合に限って、『著しく低い価額』の対価による譲渡になり得る」とされています。
実務上の目安
| 取引価格の水準 | 評価 | 理由 |
|---|---|---|
| 不動産鑑定評価額 | 原則安全 | 最も客観的な時価 |
| 相続税評価額 | 原則安全と思われる | 裁判例に合致 |
| 時価の80%~相続税評価額 | 要検討 | 個別判断が必要 |
| 時価の80%未満 | 原則危険 | 「著しく低い」と判断される可能性大 |
実務論点2:第三者間取引でも課税される
親族間に限定されない
「同族会社だけど、取引相手は他人だから大丈夫」という誤解が多く見られます。しかし、相続税法や通達には、みなし贈与を親族間に限定する規定はないようです。
東京地裁の判決では、「租税回避の問題が生じるような特殊な関係にあるか否かといった取引当事者間の関係および主観面を問わない」と判示されています。
つまり、第三者間の取引であっても、客観的に著しく低い価額での取引により株主が利益を受ければ、原則としてみなし贈与課税の対象となります。
実務論点3:誰に課税されるのか
課税対象は個人株主のみ
贈与税の納税義務者は、相続税法第1条の4第1項により個人のみとされています。法人株主には贈与税は課税されないと原則考えられます。
【図表】株主別の課税関係
| 株主の種類 | 贈与税課税 | 備考 |
|---|---|---|
| 個人株主 | あり | 株式価値増加分に課税 |
| 法人株主 | なし、と考えられる | 法人税法上の時価評価の問題 |
| 人格のない社団等 | あり | 一定の場合、個人とみなされる |
実務上の対応策
1. 適正な価格での取引を徹底
推奨される価格決定方法:
| 資産の種類 | 推奨方法 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 不動産 | 不動産鑑定評価 | 20万円~50万円 |
| 不動産 | 複数業者の査定(最低3社) | 無料~数万円 |
| 動産・機械 | 専門業者の査定 | 数万円 |
| 有価証券 | 税理士による株価算定 | 10万円~30万円 |
2. 価格決定の記録を残す
税務調査に備え、以下の書類を7年間以上保存してください。
- 不動産鑑定評価書または査定書
- 価格決定に関する取締役会議事録
- 複数社の見積書
- 相続税評価額の計算資料
- 契約書
3. 事前の税務相談
以下のような取引を検討している場合は、実行前に必ず税理士に相談してください。
- 同族会社への不動産譲渡
- 相続税評価額での取引
- 無償または格安での資産提供
- 取引金額が1,000万円以上
4. 株主構成の確認
取引前に、相手方会社の株主構成(個人株主の有無と持株比率)を必ず確認しましょう。
リスクチェックリスト
高リスク(必ず専門家に相談)
- □ 無償での譲渡を検討している
- □ 簿価や取得価額での譲渡を検討している
- □ 時価の80%を大きく下回る価格を検討している
- □ 価格算定の根拠資料がない
中リスク(慎重な検討が必要)
- □ 相続税評価額での取引を検討している
- □ 不動産鑑定評価を取得していない
- □ 第三者との取引だが格安である
低リスク(適切な対応を継続)
- □ 不動産鑑定評価額での取引
- □ 複数の査定を取得済み
- □ 時価の80%以上での取引
まとめ
同族会社への低額譲渡による株主へのみなし贈与課税について、重要なポイントをまとめます。
覚えておくべき3つのポイント
1. 「著しく低い価額」の判断
- 法令に明確な基準はない
- 裁判例では時価の80%が一つの目安
- 相続税評価額以上なら原則として安全
2. 第三者間取引でも原則として課税される
- 親族関係は不要
- 租税回避の意図も不要
- 客観的な取引価格のみで判断
3. 課税されるのは個人株主のみ
- 法人株主には原則として贈与税課税なし
- ただし法人税法上の問題は別途検討が必要
安全な取引のための4つのステップ
- 価格の適正性を確保:不動産鑑定評価や専門家の査定を取得
- 記録を残す:価格決定の根拠資料を文書化・保存
- 事前相談:重要な取引は実行前に税理士に相談
- 株主構成の確認:個人株主の有無と持株比率を把握
HIDAKI-KAIKEI 税務お役立ち情報
参考:相続税法第7条、第9条、相続税法基本通達9-2
東京地裁判決(平成19年8月23日、平成19年1月31日)


