令和8年度税制改正大綱:実務で押さえるべき重要ポイント 税のお役立ち情報

令和8年度税制改正大綱が公表されました。令和7年度改正に続き、物価上昇への対応として基礎控除等がさらに引き上げられるほか、インボイス制度の経過措置の見直しなど、実務に直接影響する改正が盛り込まれています。本記事では、すぐに実務に影響がありそうな特に重要なポイントだけ解説します。

1. 基礎控除のさらなる引上げ(令和8年分以後)

改正内容

令和7年度改正で48万円から58万円に引き上げられた基礎控除が、令和8年分からさらに4万円引き上げられ62万円となります(合計所得金額2,350万円以下の場合)。

改正の流れ:

  • 令和6年分まで:48万円
  • 令和7年分:58万円
  • 令和8年分以後:62万円

令和7年度改正の10万円引上げに続き、1年でさらに4万円の引上げとなります。

所得制限

基礎控除額は合計所得金額に応じて次のとおりとなります。

  • 2,350万円以下:62万円
  • 2,350万円超2,400万円以下:48万円
  • 2,400万円超2,450万円以下:32万円
  • 2,450万円超2,500万円以下:16万円

源泉徴収への適用時期

給与等及び公的年金等の源泉徴収については、令和9年1月1日以後に支払うべき給与等又は公的年金等から適用されます。つまり、令和8年分の所得税計算では62万円ですが、源泉徴収は令和9年1月から変更となります。

2. 給与所得控除の最低保障額の引上げ

令和8年分以後の恒久措置

給与所得控除の最低保障額が、65万円から69万円に引き上げられます(令和8年分以後)。

改正の流れ:

  • 令和6年分まで:55万円
  • 令和7年分:65万円
  • 令和8年分以後:69万円

令和8年・9年の特例措置

さらに、令和8年及び令和9年については、給与所得控除の最低保障額を5万円引き上げる特例が創設されます。

つまり、令和8年・9年の給与所得控除の最低保障額は実質的に74万円となります(69万円+5万円)。

この特例は年末調整において適用できるとされており、実務上の配慮がなされています。

3. 扶養親族等の所得要件の引上げ

基礎控除等の引上げに伴い、関連する所得要件も引き上げられます(令和8年分以後)。

主な変更点

  • 同一生計配偶者・扶養親族の合計所得金額要件:58万円以下→62万円以下
  • ひとり親の生計を一にする子の総所得金額等:58万円以下→62万円以下
  • 勤労学生の合計所得金額要件:85万円以下→89万円以下
  • 家内労働者等の必要経費の最低保障額:65万円→69万円

これにより、扶養控除等の適用範囲が拡大されます。

4. 基礎控除の特例(令和7年分以後)

令和7年度改正で創設された「基礎控除の特例」についても、令和8年度改正で見直しが行われます。

令和8年・9年分

合計所得金額が655万円以下の場合の基礎控除の加算額が変更されます。

  • 合計所得金額489万円以下:加算額42万円
  • 合計所得金額489万円超655万円以下:加算額5万円

令和10年分以後

合計所得金額が132万円以下の場合、基礎控除に37万円が加算されます。

所得制限が大幅に引き下げられ、低所得者層への支援に重点が置かれる形となります。

5. 青色申告特別控除の拡充

電子申告等を促進するため、青色申告特別控除が段階的に引き上げられます。

改正内容

従来の55万円控除:

  • 電子申告(e-Tax)による申告を要件に追加
  • 控除額を65万円に引上げ

従来の65万円控除:

  • 電子帳簿保存等の要件を追加
  • 控除額を75万円に引上げ

電子帳簿保存の要件

75万円控除を受けるには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。

  • 仕訳帳・総勘定元帳について、一定の要件を満たす電磁的記録の保存を行っている
  • 特定電子計算機処理システムを使用し、電子取引の取引情報を一定の要件に従って保存している

6. 特定生産性向上設備等投資促進税制の創設

令和8年度改正の目玉として、設備投資を強力に後押しする新たな税制が創設されます。

制度の概要

青色申告書を提出する法人が、産業競争力強化法に基づく経済産業大臣の確認を受けた「特定生産性向上設備等」を取得し、国内の事業の用に供した場合、即時償却または税額控除を選択適用できる制度です。

対象となる設備

生産等設備を構成する機械装置、工具、器具備品、建物、建物附属設備、構築物、ソフトウェア(一定の規模以上のものに限る)が対象となります。建物等も対象となる点が大きな特徴です。

(ただし生産に直接用いるものに限られ、事務用器具備品や本店・寄宿舎等の建物、福利厚生施設は対象外)

適用期間

産業競争力強化法の改正法施行日から令和11年3月31日までの間に経済産業大臣の確認を受け、確認日から5年以内に取得・事業供用した設備が対象です。

税制優遇の内容

即時償却: 取得価額の100%を初年度に償却可能

税額控除:

  • 機械装置等:取得価額の7%
  • 建物等:取得価額の4%
  • 控除上限は法人税額の20%、超過額は3年間繰越可能

工場の新設・増設など大型投資を検討している企業は、この税制の活用を積極的に検討すべきです。

7. 少額減価償却資産の特例の拡充

中小企業者等が取得した少額減価償却資産を一括で経費計上できる特例について、対象となる取得価額の上限が引き上げられます。

改正内容:

  • 現行:30万円未満
  • 改正後:40万円未満

この改正により、より多くの資産について即時償却が可能となり、中小企業の設備投資が促進されることが期待されます。

8. 通勤手当の非課税限度額の引上げ

通勤距離が片道65km以上の長距離通勤者について、非課税限度額が大幅に引き上げられます。

改正内容

通勤距離現行改正後
片道55km以上65km未満38,700円38,700円
片道65km以上75km未満38,700円45,700円
片道75km以上85km未満38,700円52,700円
片道85km以上95km未満38,700円59,600円
片道95km以上38,700円66,400円

長距離通勤が多い地方の事業者にとって、実務上の影響が大きい改正です。

9. インボイス制度の経過措置の見直し

小規模事業者の税額控除に関する経過措置

免税事業者が適格請求書発行事業者となった場合、納付税額を売上税額の一定割合とする特例について、対象期間が拡大されます。

改正内容:

  • 令和9年・10年に含まれる各課税期間:納付税額を売上税額の3割とできる
  • 確定申告書にその旨を付記するだけで適用可能

簡易課税制度への移行の容易化

この特例を受けた事業者が、翌課税期間について簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を確定申告期限までに提出した場合、その翌課税期間から簡易課税制度の適用が認められます。

免税事業者からの仕入れに係る経過措置の見直し

適格請求書発行事業者以外の者(免税事業者等)からの課税仕入れについて、仕入税額控除できる割合と期間が変更されます。

改正内容:

期間控除割合
~令和8年9月80%
令和8年10月~令和10年9月70%(改正)
令和10年10月~令和12年9月50%(改正)
令和12年10月~令和13年9月30%(改正)

現行制度では令和8年9月までは80%控除できますが、改正により令和8年10月から段階的に引き下げられることになります。

また、一の免税事業者からの課税仕入れの年間合計額が1億円(現行:10億円)を超える部分については、経過措置の適用が認められなくなります。

まとめ

令和8年度税制改正は、物価上昇への対応として基礎控除等のさらなる引上げが行われる一方、インボイス制度の経過措置についても実務を考慮した見直しが行われています。

特に重要なのは、令和7年度改正に続き基礎控除等が短期間で段階的に引き上げられる点です。源泉徴収の適用時期が異なることもあり、年末調整や確定申告の実務では注意が必要です。

また、青色申告特別控除の拡充や少額減価償却資産の特例拡大など、電子化推進や中小企業支援の観点からの改正も盛り込まれています。

HIDAKI-KAIKEI 税務お役立ち情報
出典:令和8年度税制改正大綱