【消費税】無償の社宅目的で購入し、その後転売した不動産の消費税の考え方についての整理 税のお役立ち情報

実務上、判断に迷うことも多く、影響の大きいテーマである「居住用賃貸建物」。
令和7年10月20日号の税務通信に掲載された記事に、参考になる事例がありました。
今回は、その内容を踏まえ、居住用賃貸建物の該当性と仕入税額控除の考え方について、私なりに整理してみました。

 

事例

不動産業を営む企業が、従業員社宅として無償で提供する目的で建物を取得しました。

その後、事業方針の変更により当該建物を転売しましたが、取得から売却までの間に実際の社宅利用は行われていません。

なお、取得時に取締役会で従業員社宅等として無償で提供することを目的に取得することの承認を受けています。

このような場合、建物取得にかかる消費税の仕入税額控除が認められるかどうかが問題となります。

 

居住用賃貸建物の該当性

居住用賃貸建物とは、居住の用に供する建物の貸付けを目的とするものであり、対価を得て行われる貸付けが前提となります。

今回の建物は「従業員への無償提供」を目的としており、取得時点で対価を得る取引には該当しないため、居住用賃貸建物には当たらないと考えられます。

 

仕入税額控除の適用

無償提供目的で取得した建物は、課税取引に直接対応しないため、**「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」**として扱われます。

この場合、課税売上割合(たとえば75%)に応じた範囲で仕入税額控除を適用することが可能と考えられます。

消費税が資産の譲渡等に該当しない取引に要する課税仕入れ等を、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに該当するものとして取り扱うこととしているからです( 消基通11-2-16 )。

ただし、仮に数年後から通常の賃貸料を収受するような計画と実態が取得時に内在している場合には、目に余る制度の濫用であると認定されると思われます。

そのようなスキームが横行するのであれば、当初無償提供とした従業員社宅等の実体は、その実質がフリーレント期間と同視し得る等として、取引の実態に引き直して是正すべき状況になることも十分に考えられます。

 

まとめ

今回の事例は、建物の取得目的が「無償提供」であるか「賃貸・転売」であるかによって、居住用賃貸建物の該当性と仕入税額控除の可否が大きく変わる典型的なケースです。消費税実務では、**「いつ・どのような目的で取得したか」**が最も重要な論点です。
経営判断のスピードが求められる状況でも、取得目的を明確にし、記録を残すことが、後の税務リスクを防ぐ最大のポイントとなります。