インボイス受領が困難、「帳簿のみ保存の特例」の際の帳簿記載方法 税のお役立ち情報

 

消費税の「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」では、仕入税額控除の適用のため、一定の事項が記載された帳簿適格請求書(インボイス)等の保存が必要となります。

しかし一方、インボイスの交付を受けることが困難な一部の取引では、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる特例があります。この「帳簿のみ保存の特例」について、帳簿への具体的な記載方法などを気にする向きがあるようです。

そこで『税務通信』の令和3年11月8日号において、財務省とデジタル庁のインボイス制度の担当官(財務省、デジタル超の担当官)による、その帳簿の記載等の検討がおこなわれていたので、私なりに簡単に要約した上で紹介していきたいと思います。

 

「帳簿のみ保存の特例」の対象となるのは?

インボイス制度では、仕入税額控除の適用を受けるためには、一定の事項が記載された帳簿と「請求書等」(インボイスなど)の保存が必要となるのが原則です。他方、「請求書等の交付を受けることが困難である」などの理由により、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引もあります。

例えば、「3万円未満の公共交通機関による旅客の運送」「従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)」などの取引については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。

現行制度においては、取引額が3万円未満の場合には、公共交通機関による旅客の運送に限らず、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められています。

また、「従業員等に支給される通常必要と認められる出張旅費等」についても、通常必要であると認められる部分の金額は、課税仕入れに係る支払対価の額として取り扱われ、請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるとして、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められています。

つまり、それらの取引については、現行制度であっても、インボイス制度であっても、「仕入税額控除の適用が可能」ということでは変化がないということになります

ただし、保存する帳簿に記載する事項については変化があることの認識が必要、とのことです。

具体的には、現行制度では、3万円以上の取引において帳簿のみの保存で仕入税額控除を行うには、請求書等の交付を受けなかったことにつき「やむを得ない理由」を記載することとされてる一方、インボイス制度後においては、「帳簿のみ保存の特例の対象となるいずれかの仕入れに該当する旨」を記載する必要があります。

例えば、公共交通機関の運賃や出張旅費について、「帳簿のみ保存の特例」の適用を受ける場合には、「公共交通機関特例」「出張旅費等特例」といった形で帳簿に記載することになるかと思われる、とのことです 。

 

取引に応じて「帳簿のみ保存の特例」を適用するのか明示が必要!

法令上は、単に「帳簿のみ保存の特例に該当する」旨を記載すれば良いようにも読めますが、ここでは「どの特例に該当するのか」について記載を求めていると解される、と財務省担当官の意見が述べられています。

したがってシステム上、仕入税額控除適用のための要件を充たそうと思うのであれば、「該当する帳簿のみ保存の特例」を明示する必要があるとのことです。

例えば、「取引の内容」や「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」と合わせて、「帳簿のみ保存の特例対象」と明記するだけで、どの特例を適用したのかについても実質的に明示する方法が具体例として例示されています。

 

【具体例】

〈日付〉令和5年10月2日

〈仕訳〉(旅費)2万円 /(現金)2万円

〈摘要〉従業員に支給する出張費 /新幹線代 ※「帳簿のみ保存の特例」適用

 

繰返しになりますが、仕入税額控除の適用を受けるためには、帳簿に「帳簿のみ保存の特例」の記載が必要という意識が必要、とのことです。

(注)本検討は、回答者の個人的な見解に基づくものであり、所属する組織の公式な見解等ではないことが注書きされているので、本記事を実務に適用する際にはその点、ご留意ください。