現状、販売代金等の振込手数料を売手負担とする場合、売手側では支払手数料として課税仕入れに計上するケースが多いです。また、売上値引きとして売上に係る対価の返還等として処理するケースもあります。
インボイス導入によって、その売手負担の『振込手数料部分』について色々と経理実務が煩雑になる、という話題がありましたので、簡単に解説していきます。
商品の販売代金等を決済する際の振込手数料は、持参債務の原則により、契約で売手負担と定めた場合を除き、買手(振込側)が負担することとされています。
しかし、現実には、売手負担で振込みが行われるケースも多く、請求書に「買手負担」と明記してあっても「売手負担」で振込みを行ってくるケースが少なくないのが現状です。
売手負担の場合、振込手数料を差し引いた金額が売手の口座に振り込まれます。
この場合、売手は売掛金の額と実際に振り込まれた金額の差額を支払手数料として処理し、課税仕入れに計上している経理実務が多くなっています。
現行の区分記載請求書等保存方式では、税込み3万円未満の取引については、請求書等の保存がなくても帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められています。
1回当たりの振込手数料は数百円程度ということが多いため、振込手数料を負担するのは買手なのか売手なのかという問題はさておき、振込サービスに係る請求書等がなくても仕入税額控除ができるという点で問題は生じていません。
一方、インボイス制度においては3万円未満の取引について、現行のように「帳簿のみ保存」による仕入税額控除は原則として認められません。
また、請求書等の交付を受けなかったことにやむを得ない理由がある場合の「帳簿のみ保存」の特例も廃止されるため、振込サービスに係る適格請求書等の保存が必要となります。
ここで、課税仕入れの相手方は誰なのかという疑問も生じるところですが、課税仕入れの相手方を振込サービスを提供している金融機関とすれば、買手は売手が負担すべき振込手数料を立替えたにすぎず、代金決済と同時に立替金が精算されたと整理することもできます。
この場合、売手は、買手が金融機関から受領した振込サービスに係る適格請求書と立替金精算書(金融機関の名称、登録番号、振込手数料の金額等が記載されたもの)の交付を受け、これを保存していれば仕入税額控除を受けることができるとのことです(『インボイスQ&A問75』より)。
支払手数料として課税仕入れに計上しようとすると、上記で解説した通り、買手から一定の協力を得ることが必要となることが想定されます。
この点、買手から協力を得るのが難しいケースも考えられますが、売手が振込手数料相当額を値引きしたと整理し、売上に係る対価の返還等として処理することも可能ではあります。
ただし、インボイス制度において、売上げに係る対価の返還等が行われた場合には、売手から買手に対して「適格返還請求書」を交付することが必要となるため、この場合、売手側に一定の実務負担が生じることになります。
売手負担の振込手数料を、支払手数料として課税仕入れに計上するにせよ、売上値引きとして対価の返還等として処理するにせよ、現行制度に比べて実務が煩雑になるのは避けられないのでしょうか?
事前に売手が振込手数料を負担することを双方で合意しているような場合、買手が作成する支払通知書等に、返還インボイスとして必要な事項を記載することで、“1枚の書類”で対応が完結することが可能のようです。
買手が仕入税額控除のために作成・保存している支払通知書等に、値引きに関する返還インボイスとして必要な一定の事項が記載されていれば、当事者間で、売手の売上げに係る対価の返還等の内容について確認されているためとのことです。
この場合、「売手」は改めて返還インボイスを交付しなくても大丈夫となっています(国税庁インボイスQ&A問71)。
買手が作成する「支払通知書 兼 返還インボイス」で対応する場合、返還インボイスの記載事項のうち「売上げに係る対価の返還等を行う年月日」は「販売代金の振込日」を記載すればいいとのこと。
また、「売上げに係る対価の返還等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額」は「振込手数料相当額(税込)」を記載することになります。
インボイス制度の導入に伴い、『①買手が売手負担の振込手数料を立て替えたと整理するか』、『②売手が振込手数料相当額を値引きしたと整理するのか』により、返還インボイスの交付義務の有無等の対応が異なるため、事前に当事者間でコミュニケーションをとり認識を擦り合わせることが重要になってきます。