【事業承継と税】平成30年税制改正「事業承継税制の特例」の概要について 税のお役立ち情報

 

現行の事業承継税制は,平成21年度税制改正で創設された後,平成25年度税制改正,平成27年度税制改正及び平成29年度税制改正において,適用要件が緩和されてきた。しかし,制度の認定件数及び適用件数は低調のようだ。

そこで,平成30年度税制改正により「非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予の特例制度の特例」(以下「事業承継税制の特例」という。)が創設されることとなった。この改正は,平成30年1月1日から平成39年12月31日までの間に贈与又は相続若しくは遺贈(以下「贈与等」という。)により取得する財産に係る贈与税又は相続税について適用される。

現行の事業承継税制については,原則的な制度として存置した上で,「事業承継税制の特例」により,10年間に限定して,事業承継税制の要件を抜本的に緩和するものである。

以下で,「事業承継税制の特例」の概要について,原則的な事業承継税制との相違点を中心に説明する。

なお,便宜上,原則的な事業承継税制を「原則」と称し,「事業承継税制の特例」を「特例」と記載する。

 

1 対象株式数の上限の撤廃及び納税猶予割合の拡大

「特例後継者」(*1)が,「特例認定承継会社」(*2)の代表権を有していた者から,贈与等により当該特例認定承継会社の非上場株式を取得した場合には,その取得した全ての非上場株式に係る課税価格に対応する贈与税又は相続税の全額について,その特例後継者の死亡の日等までその納税が猶予される。

改正項目

原 則

特 例

贈与税

相続税

贈与税

相続税

適用対象株式数の上限

議決権株式総数の

3分の2に達するまでの部分

議決権株式総数の全て
納税猶予割合

100% 

 

80% 

 

100% 

 

100% 

 

                                   

この結果,議決権株式総数のうち税制が対応している納税猶予割合は,贈与税の約66%(=2/3×100%)及び相続税の約53%(=2/3×80%)であったものが,ともに100%となる

(*1)「特例後継者」とは,特例認定承継会社の特例承継計画(*3)に記載された当該特例認定承継会社の代表権を有する後継者をいう。具体的には,「特例経営承継受贈者」及び「特例経営承継相続人等」をいう。いずれも「原則」における「経営承継受贈者」及び「経営承継相続人等」に対応するものである。なお,「同族関係者と合わせて当該特例認定承継会社の総議決権数の過半数を有する者に限る」旨の規律は,「特例」においても引き続き要件となる。

(*2)「特例認定承継会社」とは,「特例認定贈与承継会社」及び「特例認定承継会社」であり,「原則」の「認定贈与承継会社」及び「認定承継会社」に対応するものである。ただし,「特例」の適用を受ける場合は,平成30年4月1日から平成35年3月31日までの間に「特例承継計画」を都道府県(平成29年4月1日から経済産業局から都道府県の担当課に変更されている。)に提出し,経済産業大臣の認定を受ける必要がある。

(*3)「特例承継計画」とは,認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた特例認定承継会社が作成した計画であって,当該特例認定承継会社の後継者,承継時までの経営見通し等が記載されたものをいう。「特例承継計画」は,「特例」に固有の手続である。

 

2 「特例」の対象者

(1)贈与者・被相続人

特例後継者が特例認定承継会社の「代表者以外の者」から贈与等により取得する特例認定承継会社の非上場株式についても,特例承継期間(5年)内に当該贈与等に係る申告書の提出期限が到来するものに限り,特例の対象とされる。

したがって,贈与者又は被相続人の範囲は,先代経営者に加えて,その配偶者,他の同族関係者及び第三者(同族関係者以外の者)まで拡大されることとなる。

なお,「原則」についても,複数の贈与者からの贈与等が対象とされる。

 

(2)受贈者・相続人

① 特例後継者が一人である場合

 特例後継者であって,同族関係者のうち,特例認定承継会社の議決権を最も多く有する者が該当する。

② 特例後継者が二人又は三人である場合

 特例承継計画に記載された特例後継者が2名又は3名以上の場合には,当該議決権数において,それぞれ上位2名又は3名の者(注)までに限られる。

(注)この場合は,当該個人が総議決権数の10%以上を有すること等が要件として追加されている
                                            

改正項目

原 則

特 例

贈与税

相続税

贈与税

相続税

贈与者・被相続人「贈与者」と「被相続人」は一人に限定「特例贈与者」と「特例被相続人」は複数人(人数に制限はない。)を許容
受贈者・相続人「経営承継受贈者」と「経営承継相続人等」は一人に限定「特例経営承継受贈者」と「特例経営相続人等」は三人まで許容
                                                                  

「原則」は,「一人の先代経営者」から「一人の後継者」への親族間の贈与等のみが対象となっていた。これに対して,「特例」は,先代経営者に限定せず,「親族外の者を含む複数の株主(一人でも可)」から「三人までの後継者(一人でも可)」への贈与等が対象となる。

 

3 雇用確保要件の事実上の撤廃

制度創設時においては,「雇用の確保という政策目的」と「認定(贈与)承継会社の自由な経済活動を阻害しないという要請」との調和の観点から,事業承継時の2割までの減少については,納税猶予の打切り事由とされなかった。

しかし,「経営(贈与)承継期間」(原則として,贈与税・相続税の申告期限の翌日から5年を経過する日までの期間)の「8割の雇用確保要件」は,中小企業実務においては相当の負担と感じられていた。

この点については,平成25年度税制改正により「5年平均で8割」となり,平成29年度税制改正により「80%判定の際の端数調整の方法」が見直された。

しかし,日税連や中小企業団体等からの改正要望が続いたところ,今回の「特例」においては,現行の事業承継税制における雇用確保要件を満たさない場合であっても,納税猶予の期限は確定しないこととなった。すなわち,納税猶予が継続するのである。

ただし,納税猶予を継続させるためには,その満たせない理由を記載した書類を都道府県に提出しなければならない。この書類は,「認定経営革新等支援機関」の意見が記載されているものに限られる。

なお,その満たせない理由が,経営状況の悪化である場合又は正当なものと認められない場合には,特例認定承継会社は,認定経営革新等支援機関から指導及び助言を受けて,当該書類にその内容を記載しなければならない。なお,この記載する理由の内容は,原則として,チェックボックスによる選択方式が検討されている。

 

4 経営環境の変化に応じた納税猶予額の減免

「経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合」において,特例承継期間経過後に,[ア]特例認定承継会社の非上場株式の譲渡をするとき[イ]特例認定承継会社が合併により消滅するとき[ウ]特例認定承継会社が解散をするとき等には,一定の納税猶予税額が免除される。

〔経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合〕

「経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合」とは,次のいずれかに該当する場合をいう。

① 直前の事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上,特例認定承継会社が赤字である場合
② 直前の事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上,特例認定承継会社の売上高が,その年の前年の売上高に比して減少している場合
③ 直前の事業年度終了の日における特例認定承継会社の有利子負債の額が,その日の属する事業年度の売上高の6か月分に相当する額以上である場合
④ 特例認定承継会社の事業が属する業種に係る上場会社の株価(直前の事業年度終了の日以前1年間の平均)が,その前年1年間の平均より下落している場合
⑤ 特例後継者が特例認定承継会社における経営を継続しない特段の理由があるとき
                                                                   

〔免除される納税猶予税額〕

イ 「再計算した贈与税額等」(*4)と「直前配当等の額」(*5)との合計額(*6)を納付することとする。反対に,当該「再計算した贈与税額等」と「直前配当等の額」との合計額が当初の納税猶予税額を下回る場合には,その差額が免除される。

(*4)「特例認定承継会社に係る非上場株式の譲渡若しくは合併の対価の額」(*7)又は「解散の時における特例認定承継会社の非上場株式の相続税評価額」を基に再計算した贈与税額等をいう。

(*5) 譲渡等の前5年間に特例後継者及びその同族関係者に対して支払われた配当及び過大役員給与等に相当する額をいう。

(*6) 合併の対価として交付された吸収合併存続会社等の株式の価額に対応する贈与税額等を除いた額とし,当初の納税猶予税額を上限とする。

(*7) 当該譲渡又は合併の時の相続税評価額の50%に相当する額を下限とする。

 

ロ 特例認定承継会社の非上場株式の譲渡をする場合又は特例認定承継会社が合併により消滅する場合において,下記ハの適用を受けようとするときには,上記イの「再計算した贈与税額等」と「直前配当等の額」との合計額については,担保の提供を条件に,上記イにかかわらず,その納税が猶予される。

ハ 上記ロの場合において,上記ロの譲渡又は合併後2年を経過する日において,譲渡後の特例認定承継会社又は吸収合併存続会社等の事業が継続しており,かつ,これらの会社において特例認定承継会社の譲渡又は合併時の従業員の半数以上の者が雇用されているときには,次のように納付し,又は免除される。

● 実際の譲渡又は合併の対価の額を基に「再々計算した贈与税額等」と「直前配当等の額」との合計額を納付する。

● 当該「再々計算した贈与税額等」と「直前配当等の額」との合計額が上記ロにより納税が猶予されている額を下回る場合には,その差額が免除される。

 

ただし,特例認定承継会社の非上場株式の譲渡等の時期に応じて,次の区分により,「経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合」に該当するものとされる。

特例認定承継会社の 
非上場株式の譲渡等の時期

「経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合」

直前の事業年度終了の日から6か月以内に行われたとき上記①~③

 

①~④について,「直前の事業年度終了の日」を「直前の事業年度終了の日の1年前の日」とした場合に,「経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合」に該当するとき

直前の事業年度終了の日から6か月後1年以内に行われたとき上記④
                                                                   

5 相続時精算課税制度の適用範囲の拡大

平成29年度税制改正前は,特例受贈非上場株式等について相続時精算課税制度の適用を受けることができないことから,猶予期限の確定事由に該当した場合(納税猶予の継続が認められないこととなった場合)には,相続税よりも累進度の高い暦年課税に基づく税率により計算された猶予税額を納付する必要があった。この税負担の将来リスクが事業承継税制を選択しない原因の一つとされていた。

平成29年度税制改正により,平成29年1月1日以後の贈与から,「原則」と相続時精算課税制度の併用が認められることとなった。。この併用により,税負担の将来リスクを制度的に軽減することが可能となった。

なお,相続時精算課税制度の適用対象者は,次の通りである。

贈与者贈与をした年の1月1日において60歳以上である者
受贈者贈与者の「推定相続人」でその年の1月1日において20歳以上である者
                                    

平成30年度税制改正により「特例」が創設され,適用対象者が拡大されることに対応するために,特例後継者が「贈与者の推定相続人以外の者」であり,かつ,その贈与者が同日において60歳以上の者である場合には,相続時精算課税の適用を受けることができることとされる(。

特例贈与者贈与をした年の1月1日において60歳以上である者
特例経営承継受贈者特例贈与者の「推定相続人以外の者」でその年の1月1日において20歳以上である者
                                                

この改正により,「特例贈与者」と「特例経営承継受贈者」との関係には,制約がなくなったことになる。

 

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