使用人兼務役員の「肩書」が変わった時の税務リスク解説(裁決例より) 税のお役立ち情報

 

使用人兼務役員とは、役員のうち『部長、課長、その他法人の使用人としての職制上の地位』を有し、かつ、『常時使用人としての職務に従事する者』のことをいう。

そのような使用人兼務役員については、支給される賞与のうち「使用人職務分」については損金算入ができる。

しかし、会社は使用人兼務役員だと考えていても、税務調査の場面で使用人兼務役員ではないと言われることもある。その時は、その使用人兼務役員に払った賞与が損金ではない(税務上の費用ではない)ことになり、その分追徴されてしまう。

今回は、実際に『使用人兼務役員ではない』とされた裁決例を見て、そのような事態にならないための一助にしていただきたいと思う。

 

そもそも、使用人兼務役員になれない人はどんな人?

次の1から5に該当する者は使用人兼務役員になることはできない。

  1. 代表取締役、代表執行役、代表理事及び清算人
  2. 副社長専務常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員
  3. 合名会社、合資会社及び合同会社の業務執行社員
  4. 取締役(委員会設置会社の取締役に限ります。)、会計参与及び監査役並びに監事
  5. 上記の他、同族会社の役員のうち株式の所有割合の要件に当てはまる者

また、「同族会社の使用人のうち税務上みなし役員とされる者」も、使用人兼務役員になることはできない。

(「同族会社の使用人のうち税務上みなし役員とされる者」まで解説すると細かくなって論点がずれるので、確認したい人は下記国税庁HPの2(2)をご参照いただきたい)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5200.htm

 

実際に『使用人兼務役員ではない』とされた裁決例の要旨(令和2年12月17日裁決)

本件取締役は、もともとは営業部長だった。

しかし平成27年4月1日の機構改革によって、組織図上の職責が「営業部長」から「統括」に変更された。

すると、「統括」に変更された日以後は営業部長として職責上の地位を有しないとして、同日以後に支払われた賞与については、使用人職務分はないから全額が損金算入を認められないと判断された

 

本裁決のポイント

使用人兼務役員に該当する者として、法人税法は①社長、理事長その他政令で定めるものを除く役員のうち、部長、課長その他使用人としての職制上の地位を有し、かつ、「常時使用人としての職務に従事するもの」(法人税法第34条第6項)と規定し、法人税法施行令は、使用人兼務役員から除く役員として、「副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員」(法人税法施行令第71条第1項第2号)と規定している。

法人の役員が使用人兼務役員に該当するというためには、これらの全ての要件を満たす必要がある。

会社は、本件取締役について、会社の代表者の親族や株主ではない、実質的な意思決定の場である月例会議にも参加していない等と主張するが、平成27年4月1日の会社内での職務分掌の変更(分掌変更)により、会社の営業部の部長職の地位を失っていることから、同日以後、会社における使用人としての職制上の地位を有していないと認められる

そのため、本件取締役は使用人兼務役員には該当せず、分掌変更以後に支給された賞与の額は損金の額に算入されない、とされた。

 

本裁決を受けての所感

たしかに法人税法の法令部分ではなく、通達部分に「統括」は職制上の地位ではなく使用人兼務役員には該当しない、と書いており、本裁決は会社側が不利な戦いであったことは否めない。

(使用人としての職制上の地位)基通9―2―5

法第34条第6項⦅使用人兼務役員⦆に規定する「その他法人の使用人としての職制上の地位」とは,支店長,工場長,営業所長,支配人,主任等法人の機構上定められている使用人たる職務上の地位をいう。従つて,取締役等で総務担当,経理担当というように使用人としての職制上の地位でなく,法人の特定の部門の職務を統括しているものは使用人兼務役員には該当しない。

使用人兼務役員の肩書の変更があった時は、使用人兼務役員に該当する者から外れていないか細心の注意をお払いいただきたい。