いつでも税務調査で頻繁に議論になるのが、「修繕費」と「資本的支出」の区分だ。そして近年、 税務調査の現場では、機械や車両の“主要部品”の交換についての議論がよく起きているらしい。
つまり税務調査官は、「主要部品」を交換することで、その資産の使用可能期間が延びるという考え方ができる、という理論構成で攻めてくるとのことだ。
例えば、自動車のエンジンのような「主要部品」については、それがないと設備そのものが機能しないため、交換した部品の品質や性能が従来と変わらないとしても、すべて“資本的支出”に該当する、という主張をしてくるということだ。
しかし、機械装置や車両の“主要部品”を交換した場合でも、必ず資本的支出となるわけではない。
今回は、そいった「主要部品」の交換について、税務調査で修繕費か資産計上か言い争いになった事業者に向けて、正しい考え方を解説していく。
法人税法において、その支出が固定資産の使用可能期間を延長させる場合等は、その支出は資本的支出(つまり固定資産になる支出)に該当すると定めている。
法人税法施行令第132条《資本的支出》
内国法人が、修理、改良その他いずれの名義をもつてするかを問わず、その有する固定資産について支出する金額で次に掲げる金額に該当するもの(そのいずれにも該当する場合には、いずれか多い金額)は、その内国法人のその支出する日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
一 当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額
二 当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測されるその支出の時における当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額
しかし、「主要部品」を交換したからといって、必ずしも使用可能期間が延びるとはいえない。
上記の法令に書かれている通り、“資本的支出”に該当するのは、「資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額」とされているのだ。
例えば、自動車のエンジンに類似したケースに、電動フォークリフトのバッテリーがある。電動フォークリフト自体は10年以上使用できるようだが、それよりもバッテリーの寿命が短いため、バッテリー交換が欠かせない。
この場合、資産の取得時に、電動フォークリフトの使用可能期間をバッテリー交換することを前提として見積もっているのであれば、バッテリー交換を行ったからといってその使用可能期間が延びることはない。このため、修繕費に該当するということだ。
ただし、使用可能期間がバッテリー交換によって延長、若しくは資産の価値が増加するケースも考えられる。その場合には、資本的支出に該当することになる。
修繕費と資本的支出の区分については、実務の簡素化を考慮して、一定の形式基準も定められている。
例えば、修理、改良等のために要した費用の額の中に「資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額がある場合」において、その金額が次のいずれかに該当する場合には、修繕費として損金経理をすることができる。
(1) その金額が60万円に満たない場合
(2) その金額がその修理、改良等に係る固定資産の前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合
この取扱いについても税務調査官は、「主要部品」の交換に関しては“資本的支出”に該当することが明らかであるため、適用できないと主張してくることもあるらしい。
しかし、前述の通り、主要部品の交換が必ずしも資本的支出に該当するわけではない。
また電動フォークリフトのバッテリー交換を例に出せば、バッテリー交換によってフォークリフトの使用可能期間が延長されるかどうか微妙なケースもあり、そのケースではバッテリー交換費用は修繕費とも資本的支出とも考えられる。
その場合、バッテリー交換費用は「資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額がある場合」に該当し、その金額が『60万円に未満』または『その修理、改良等に係る固定資産の前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下』であれば、修繕費として処理できる、ということになる。