税務調査では、日々の企業活動より発生する、売上、原価、経費等を証憑類で確認するが、『固定資産の除却損』といった特別損失に計上されるものも必ず確認する。
もちろん、会社の固定資産や棚卸資産等の資産を破砕、廃棄等した場合は、その簿価を損金計上することができる。
しかし、税務調査で問題となりやすいのは、下記の①~③で、特に①は必ず確認されるといってもいいので注意が必要となる。
① 資産等を除却した日
② 有姿除却をした資産の状況
③ ソフトウェア等無形資産の除却の理由と状況
税務調査では、廃棄等の事実を確認するため、「廃棄物処理業者の産業廃棄物管理票(マニフェスト)」や、「引取り業者等の発行する証憑」等を確認する。
会社の決算実務では、当期に資産を除却するかどうかは決算月に判断するケースが多いため、実際に除却をしたのが決算日以降になってしまうこともある。そのため、税務調査では引取り等が決算日内に行われていたかがチェックされる。
さらには、除却損が高額で、除却日が決算に近い日の場合等で疑義があれば、取引の相手先まで反面調査に行くこともある。逆に、その廃棄等の事実が確認できれば、あとはスクラップとしての金銭の授受の有無を確認し、それが正しく計上されていれば特に問題はない。
したがって、調査対応としては、除却日を明確にしておくこと、金銭の収受があった場合は処理を正しくしておくことが重要となる。
なお、自己で廃棄をする場合は「リスト」と「画像」等を残しておき、廃棄の事実を立証できるようにしておくことを強くお勧めする。
『有姿除却』とは、固定資産を廃棄等していない場合でも、使用を廃止し今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないこと、特定製品の金型等で生産中止となり将来使用される可能性がほとんどないことが明らかなことにより、その処分見込価額を簿価より差し引いた額を除却損として認めるものである。
固定資産としての命数が尽き、又はその使用価値が失われたことが外形的に明確である場合にこれを除却処理することはむしろ当然のことなのであるが、現状有姿のまま除却するという場合には、外形的に見て、将来再び使用する可能性が全くないとはいえないとはいえない。
そこで、法人税の通達により2つの事例を掲げ、たとえ有姿除却であつても、その資産がもはや固定資産としての命数又は使用価値を失ったことが客観的に立証される限り、スクラップ価額を残した上で除却処理をする選択肢を残している。
法人税法基本通達7-7-2 有姿除却
次に掲げるような固定資産については、たとえ当該資産につき解撤、破砕、廃棄等をしていない場合であっても、当該資産の帳簿価額からその処分見込価額を控除した金額を除却損として損金の額に算入することができるものとする。
(1)その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
(2)特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等からみて明らかなもの
(1)の場合、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないかどうかは個々の事実認定の問題であるが、その使用を廃止した時点における事後処理の方法、客観的な経済情勢その他情況の変化を見きわめた上で、今後の使用可能性があるかどうかを判断することになる。
税務調査では、使用しなくなった経緯や該当する固定資産の現物の状況の確認、転用を含めた再利用の可能性を会社の関係者からヒアリング等を行い、かつ、処分見込価額の金額が適正であるかを調べる。したがって、調査対応としてはこれらを説明できるように資料等を準備しておくことが重要となる。
なお、仮に他に転用する可能性が若干あるとしても、その転用後の使用方法が当該資産の本来の用途,用法と全く異なるものであり,経済性が維持できないような極端な用途変更である場合には,それはここでいう「通常の方法により事業の用に供する可能性」には当たらないと解すべきである。
また、廃棄する予定であった固定資産の廃棄が決算日までに行われなかった場合、有姿除却の要件に該当すれば除却損の計上は可能だが、その場合は、処分見込価額を差し引く必要がある。
ソフトウェア等の除却については、物理的な除却(廃棄等)を外形的に証明することが難しい。
そのため、法人税の通達では、そのソフトウェアを使う業務が廃止等により利用しなくなったことが明らかな場合、又はハード、システム等の変更により従来のソフトウェアを利用しなくなった場合に除却損の損金算入できるとしている。
法人税法基本通達7-7-2の2 ソフトウエアの除却
ソフトウエアにつき物理的な除却、廃棄、消滅等がない場合であっても、次に掲げるように当該ソフトウエアを今後事業の用に供しないことが明らかな事実があるときは、当該ソフトウエアの帳簿価額(処分見込価額がある場合には、これを控除した残額)を当該事実が生じた日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。
(1)自社利用のソフトウエアについて、そのソフトウエアによるデータ処理の対象となる業務が廃止され、当該ソフトウエアを利用しなくなったことが明らかな場合、又はハードウエアやオペレーティングシステムの変更等によって他のソフトウエアを利用することになり、従来のソフトウエアを利用しなくなったことが明らかな場合
(2)複写して販売するための原本となるソフトウエアについて、新製品の出現、バージョンアップ等により、今後、販売を行わないことが社内りん議書、販売流通業者への通知文書等で明らかな場合
税務調査では、除却したソフトを利用していた業務を現在はどのように行っているか、新たなソフトウェアの購入状況を確認する。会社では利用しなくなった事実を明らかにする客観的な資料を残しておくことが重要となる。