中小企業M&A準備金制度創設!どのような税務処理が必要になる? 税のお役立ち情報

令和3年度改正で創設された「中小企業事業再編投資損失準備金制度」は、株式譲渡により多額の費用がかかるM&A実施年度に、取得した株式等に見込まれる株価下落の損失に備えるため一定額を損金算入できる制度だ。

改正産業競争力強化法等の施行日から令和6年3月31日までに『経営力向上計画』の認定を受けた中小企業者が適用できる。これを利用すれば、M&A実施年度の税負担を軽くする分、デューデリジェンス等の費用に回し、M&A後の簿外債務等のリスクに備えることも可能になる。

では、「損金算入するための税務処理等」はどのようになるのだろうか?現時点で分かっていることは、下記の通りである。

 

経理処理方法は、剰余金の処分方式でもOK

本制度は株式等の取得価額の70%までを損金算入でき、そのためには『中小企業事業再編投資損失準備金』を積み立てることが必要となる。

準備金を積み立てる方法としては、「準備金方式」のほか「剰余金の処分方式」でもできるとのこと。

【例】取得価額1億円の株式等を購入した場合の仕訳例

ただ、積み立てた準備金は積立後5年据え置いた後そこから5年間で均等に取り崩して益金算入しなければならないので、利益と課税の繰延べと言われれば、たしかにその通りではある。

さらには、据置期間中に株式等の売却など取崩し事由があった場合には、その年に一定額の準備金を取り崩して益金算入する必要がある。

 

高額な株式等の取得には利用できないので注意

対象株式等は、取得価額10億円以下で、中小企業等経営強化法の認定経営力向上計画に従って購入したものに限られる。10億円超の場合は適用できない点に留意したい。

また、本制度を適用できる法人は、青色申告書を提出する資本金の額等が1億円以下の中小企業者に限られ、適用除外事業者(過去3年間平均所得15億円超)は除外されている。

 

実務上の留意点

(1)株式の取得前に、改正強化法の経営力向上計画を作成・申請し、認定を受ける必要がある。

(2)M&A前後の多忙な時期に煩雑な事務処理が必要になる可能性がある。

(3)中小企業経営強化税制の2年延長に加えて、対象設備の範囲に、本計画の実施に必要なM&A後の設備投資が含められ、M&Aに伴い、複合的な税制の活用が可能になるため、各制度の適用要件を把握する必要がある。