【実例】税務調査で前受金を売上に計上しろと言われたら? 税のお役立ち情報

 

税務調査の際、売上関係は必ずその対象になる勘定科目です。

調査は、売上除外だけでなく、売上の期ずれがないか、というポイントを中心に行われます。

時に、建設業や製造請負業において、税務調査担当官の身勝手な独自理論で、未完成の請負契約に対して受領している「前受金」について、検収が実施されていることを根拠に売上に計上することをもとめてくることもあります。

今回は、そのような時に税務署側の主張を退けた実例を紹介致します。

 

取引事実

  1. 会社は、製造請負に関して、基本契約書、注文書に基づいて取引を受けている。
  2. 会社は、出荷、先方の検収が完了した時に、売上を計上している。
  3. ある長期に渡る製造請負の注文に関して、会社は製造物の一部が完成した段階で、発注側に検収してもらった上で、受注代金の一部を前受金という形で受領している。
  4. 上記3.の取引に関しては、発注側としては特例的に会社に受注代金の一部を前渡金として渡すので、発注側の会社内部管理の都合上、「製造物の一部」の注文書を発行している。

 

税務署担当官の主張

発注側は「製造物の一部」についての注文書を発行し、「製造物の一部」について検収実施後に検収書を発行していました。

そして検収書発行後、発注側は「製造物の一部」に対して代金を支払っています。

会社は、当該代金は資金繰り上のつなぎ資金としていただいているのにすぎないので、その時点では売上ではなく前受金として処理しています。

すると税務署担当官は、「【注文書】【検収書】【代金の受領】が揃っているのだから、この前受金は売上として計上すべき」と主張してきました。

 

われわれの主張

それに対しての我々の反論はこうです。

「取引の実質を見て判断することが必要になりますよ。

そちらのの主張は、製造請負品について、税務上は選択すれば認められるに過ぎない『部分完成基準』を採用することを強要していることと同義です。

【注文書】はあくまで発注側の都合で『製造物の一部』について発行しているだけで、取引の本質は『その製造物全体の注文』です。なぜなら、発注側はその『製造物の一部』を納品されても、何も使用収益できる状態ではないからです。

また、発注側が実施している『検収』についても、製造の出来高を査定しているだけのものであり、出来高請求金額に相当する部分の完成を確認したものではありません。

さらには、会社は製造請負品についてはこれまで一貫して出荷・納品・検収完了後に売上を認識する基準を採用しています。(売上計上基準の継続性の主張)

 

それともう一点、最近公開された裁決例で、以下のようなものがある。今回の取引の類似した事案であり、税務署の主張が全て否定されており参考になると思います。

〈請負による収益の額は、約した役務の全部を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入するとした事例〉

(全部取消し・平成30年4月13日裁決)

 

《ポイント》

本事例は、原処分庁が、注文書等に記載された請負代金の支払条件である「検収に基づく出来高払い」の文言を誤って解し、請負による収益の額を部分完成基準により益金の額に算入すべきとした原処分の全部を取り消したものである。

 

《要旨》

原処分庁は、請求人が元請先から請け負った各工事(本件各工事)に係る注文書及び注文請書には、請負代金の支払条件として、元請先の検収に基づく出来高払いによることとされていることから、法人税基本通達2-1-9《部分完成基準による収益の帰属時期の特例》が定める特約又は慣習があり、出来高に応じた請求金額(本件各出来高請求金額)を出来高が検収された日の属する事業年度の益金の額に算入すべきである旨主張する。

しかしながら、本件各出来高請求金額は、本件各工事の工事監督者が本件各工事の出来高を査定したもので、本件各工事の出来高の請求書ではこの査定を「検収」と記載しているが、これは出来高の金額を確認する、あるいは出来高の金額の支払を認めるという意味で使用しているものであり、元請先が本件各出来高請求金額に相当する部分の完成を確認したものではない。そして、元請先は、工事の竣工検査における合格日(検査合格日)を検収日(引渡日)としているから、本件各工事はそれぞれの検査合格日に請求人の役務の提供が完了したと認められる。したがって、本件各工事に係る収益は、法人税基本通達2-1-5《請負による収益の帰属の時期》に定めるいわゆる工事完成基準により、本件各工事の請負代金の全額を本件各工事の検査合格日の属する事業年度の益金の額に算入すべきものである。

 

《参照条文等》

 法人税法第22条第2項、第4項

 法人税基本通達2-1-5、2-1-9

                                                                  

 

結末

税務署担当官は、一度持ち帰って検討する旨の回答をし、判断を保留しました。

後日、会社の売上経理処理で修正すべき箇所はなかった旨の回答を得ました。つまり、会社側の主張を全面的に認め、たとえ「注文書」、「検収書」、「代金の受領」が形式的には揃っていたとしても、取引の実態は製造物全体の注文であり、その製造物全体の出荷・検収が完了した段階で売上に計上しても問題ないことを、税務署側が認めたことになりました。

税務調査において、調査担当官が法令や自身の内部通達等に則ることなく、形式的に物事をとらえ追加の納税をもとめてくる場面に多々対面しております。

そいう時は、会社側はあわてず調査担当官の言いなりになることなく、調査立合されている税理士先生は法令等に則り理論整然と反論し、税務署担当官を論破する姿勢は堅持してください。

 

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