タワーマンションの購入やアパート建設で、遺産相続時の相続税を減らす節税策が脚光を浴び続けていました。私としては、こんなに好き放題にやって、いざ相続税の税務調査が入った時に、痛い目に合うのでは?と傍観していましたが、実際に痛い目にあった事案が出てきました。
まわりから、相続税回避スキームとして、マンション購入やアパート建設をすすめられている方がいましたら、まずは、今回の事案に目をとおしてから判断することをお勧めいたします。
東京地方裁判所は8月27日、被相続人が相続開始前に借入金で取得した賃貸用不動産の相続税評価額を巡り、財産評価基本通達6項に基づく国税庁長官の指示による評価を認め、納税者の主張を棄却しました(平成29年(行ウ)第539)。
つまり、相続開始直前期において、銀行から借入れをし、その借入金で賃貸用不動産を取得したことで相続税の負担をなくしたスキームにストップがかかりました!
その賃貸用不動産の「評価通達による評価額」と「売買価額等」が著しくかい離しているというだけでなく、銀行の貸出稟議書等から、相続税の節税のためにあえて借入れ、及び、不動産の購入を企画・実行したものと認め、こうした本件の経緯にも着目した上で、評価通達6項に基づき鑑定評価額を認めています。
本件では、平成21年まで不動産賃貸業を営む法人の代表者であった被相続人が、“相続開始前3年5か月前”に、賃貸用不動産(甲不動産)を約8億3千万円で取得しました。
また、“相続開始前2年6か月前”に、賃貸用不動産(乙不動産)も約5億5千万円で取得。そして、これら本件各不動産の購入資金として、銀行から合計約10億円の借入れをしました。平成24年6月の相続開始後、相続人は本件各不動産を評価通達に基づき合計約3億3千万円と評価、さらに借入金約10億円を債務控除し、小規模宅地特例を適用したうえで、相続税をゼロとして申告しました。
これに対し税務署は、評価通達6項(評価通達の定めにより評価することが著しく不適当な場合に国税庁長官の指示で評価する定め)に基づき、鑑定評価額(甲不動産:約7億5千万円、乙不動産:約5億2千万円)による評価が適正として、平成28年4月に更正処分。
なお、相続人は相続開始の9か月後に、乙不動産を約5億1千万円で第三者に譲渡しています。
東京地方裁判所は国の主張どおり、鑑定評価額の方を認めました。租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかな「特別の事情」がある場合には評価通達で定める以外の合理的な方法で評価することが許されると解すべきとして、評価通達6項の定めを支持しています。
そして、本件各不動産の「評価通達の評価額」と「売買価額や鑑定評価額」を比べ、4倍ほどかい離していることを指摘しています。
さらに、本件各不動産が相続財産に含まれることになった経緯をみると、被相続人は当時90歳、91歳の時に銀行から多額の借入れをして本件各不動産を購入しています。
借入金と本件各不動産の購入がなければ、本件相続の課税価格は6億円を超えるものでしたが、借入金と本件各不動産の購入があったことで、評価通達の評価額と比べ借入金債務が多額となり、その差額が不動産を除く相続財産から控除され、相続税は課されないこととされました。加えて、借入金に係る銀行の貸出稟議書の記載などによれば、本件各不動産の購入や借入れを被相続人及び法人の事業承継の過程の一つと位置づけつつも、それが近い将来発生することが予想される相続において相続税の負担を減じるものと知り、かつ、それを期待してあえて企画して実行したと認められています。
以上の事実関係の下で、本件では、評価通達の評価方法を形式的に適用すると、本件各不動産の購入と借入れに相当する行為を行わなかった他の納税者との間で、かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかというべきであり、評価通達以外の評価方法で評価することが許されるというべき、としています。
そして、本件鑑定評価の適正さに疑いをさしはさむ点がないことに照らせば、本件各不動産の時価は、収益還元法に基づく本件鑑定評価額と認められるとしました。
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