【クリニック開業】経理・税務のポイント【会計士が解説】 非営利のための会計・税務の情報

 

 

クリニック(医院)では人の命を救うという特殊性があり、医療保険制度(国民健康保険、社会保険)があるため、経理処理の面で他の業種とは異なる知識が必要となります。

 

特に収入の計上については、注意が必要です。

 

以下で、クリニックを開業予定・開業したドクター向けに、クリニックの経理のポイントを解説していきますので、是非参考にしてください。

 

 

クリニックの経理の基本ポイント

 

1.クリニックの入金の流れ

保険診療による収入は、「⑦患者から診療のつど窓口で一部負担金として受け取る保険窓口収入」⑨「レセプト請求によって社会保険支払基金・国民健康保険連合会から振り込みにより支払われる金額」とがあります。

 

たとえば、国民健康保険の場合には、原則として3割を自己負担金として患者から窓口で支払いを受け、残り7割は国民健康保険連合会から原則2ヶ月後に振り込まれます。

 

 

2.経理は明確かつシンプルにしていく

「クリニック用の通帳」は、なるべく普通預金は1口座のみにして、収入・支出とも普通預金を通るようにします。ただし、「クリニック用の通帳」と「家計費用の通帳」とは必ず分けましょう。院長の生活費分は、毎月決まった金額を病医院用の通帳から家計用の通帳へ振り替えて、院長の個人的な支払いはこちらから行います。

 

クレジットカードは、引き落とし口座を「家計費用の通帳」とします。クレジットカードを使用する際は領収書を発行してもらい、クリニックの小口現金から家計費用の通帳に入金するという形で精算します。

 

小切手(当座預金)は、会計処理が複雑になりますので、なるべくは避けた方がいいでしょう。

 

 

窓口収入の経理処理のポイント

 

1.窓口収入

【取引の流れ】

窓口日計表(又はレジペーパー)→ 窓口入金集計表(窓口現金勘定)→ 普通預金へ入金

 

日々の窓口での保険窓口収入、自由診療収入、その他の医業収入は、窓口日計表(レジペーパー)で集計して窓口入金集計表に記入し、そのままの金額を普通預金へ入金します。

 

小口の経費は、普通預金から小口現金出納帳に定額で資金を用意しておき小口現金から支払います。

 

普通預金への入金は1週間に1回程度でも結構ですが、日付ごとに入金して、通帳の摘要欄に「○月×日分」と書いておきます。

 

 

「窓口収入の免除」については、病医院の税務調査の際に保険点数の10倍の保険収入が計上されていないと収入の計上洩れを疑われます。これは、健康保険法より窓口一部負担金についてはその免除が認められていないからです。

 

なお、もし窓口収入の免除があった場合には、保険窓口収入に計上してから診療費減免や売上値引(患者)、福利厚生費(従業員)、交際費(事業関係者)、事業主貸(家族・親類)などとします。

 

保険請求収入の経理処理のポイント

 

1.保険請求収入

【取引の流れ】

レセプト請求(保険請求収入勘定) → 医業未収金管理表(医業未収金勘定) → 普通預金へ入金(仮払源泉税の計上、保険等調整増減)

 

クリニックは、保険診療の代金のうち自己負担部分(通常は3割)は窓口にて本人より徴収し、残りの部分(通常は7割)についてはレセプト請求(レセプト総括表、診療報酬請求総括表)により社会保険支払基金や国民健康保険連合会へ請求をしています。

 

①自己負担割合、窓口徴収額などから社会保険支払基金への請求金額や国民健康保険連合会への請求金額を算定して保険請求収入を計上します。なお、レセコン(レセプト・コンピュータ)により、レセプト請求を行っているクリニックについては社会保険支払基金への請求金額や国民健康保険連合会への請求金額はレセコンにより算定されています。

 

例)1月分のレセプト請求は社保200万円、国保240万円であった。

1/31(医業未収金)2,000,000(保険請求収入)2,000,000社保支払基金1月分
1/31(医業未収金)2,400,000(保険請求収入)2,400,000国保連合会1月分

②レセプト請求した診療報酬は、内容のチェックが行われ、再提出を求められたり(返戻)、減点(減額)され、約2ヶ月後に社会保険支払基金と国民健康保険連合会からそれぞれ入金されます。その際に、個人経営の場合には社会保険支払基金からの入金については源泉所得税が徴収されます。

 

源泉所得税は『仮払源泉税』勘定で処理し、所得税の前払いですので確定申告の際に年税額から控除して精算します。源泉所得税額は、『(診療報酬-20万円)×10.21%=源泉所得税額』で算定されています。

 

なお、国民健康保険連合会からの入金については源泉所得税の徴収はありません。経理入力用の資料としては、『当座口座振込通知書』、『診療報酬決定通知書』があります。

 

また、社会保険支払基金や国民健康保険連合会からの入金は、通常、減点や返戻により、請求額よりも入金額の方が少なくなります。この差額は「保険等調整増減勘定」(収入のマイナス項目)により調整します。

 

例)3/23社保は4万円の減点で、源泉所得税は179,696円、振り込み入金額は1,780,304円であった。3/25国保は3万円の減点で、振り込み入金額は2,370,000円であった。

3/23(普通預金)1,780,304 (医業未収金)1,780,304 社保支払基金1月分入金
 (仮払源泉税)179,696 (医業未収金)179,696 社保支払基金1月分入金
 (保険等調整増減)40,000 (医業未収金)40,000 社保支払基金1月分入金
3/25(普通預金)2,370,000 (医業未収金)2,370,000 国保連合会 1月分入金
 (保険等調整増減)30,000 (医業未収金)30,000 国保連合会 1月分入金

 

③ 件数、実日数、点数より分析

レセプト総括表(診療報酬請求総括表)はそのクリニックのいろいろな経営情報がわかります。

 

クリニックにおいても一般の企業と同じように収入金額の増加が経営の1つの目標ですが、レセプト総括表を分析することにより、患者さん1人・1回当たりの収入金額やレセプト1枚当たりの収入金額、1日当たりの外来患者数、平均して1人の患者さんが月に何回来院したか、1日当たりの保険点数(保険診療報酬)などがわかります。

 

これを前月・前々月、前年・前々年などと比較することにより経営の状況が把握できます。

 

2.自賠責保険収入・労災保険収入

【取引の流れ】

請求 → 未収入金台帳(管理簿、管理ノート)→ 普通預金へ入金

 

自賠責保険収入・労災保険収入があるクリニックについては、その管理をきちんと行う必要があります。

 

「自賠責保険収入・労災保険収入」は社保・国保と違い、請求から入金までが2ヶ月と決まっているわけではなく、ケースによっては長期化することもあり、非常に煩雑になりやすいので注意が必要です。

 

未収金台帳(管理簿、管理ノート)を請求先(労災・損保会社など)ごとに作成し、診療日、氏名、金額を記入して管理し、入金があった場合にはその日時などを記入して消し込みを入れます。すぐに、未入金がわかるようにしておき、入金が長期化した場合には、先方に状況の確認をするぐらいの管理が必要です。

 

(労災・自賠未収入金)××× (労災・自賠責収入)×××  △△損害保険○○様分

 

3.自由診療収益

「自由診療」は、いわゆる「保険の利かない」診療であり、美容外手術や厚生労働省が承認していない治療や薬を使用するケースが該当します。

 

「自由診療」はその診療報酬の全額が患者の負担となります。すなわち、不特定多数の患者とクリニックの間で直接的に現金の受け渡しが行われるため、いわば現金商売をしているのと同様であり、税務当局の立場からすれば、売上の捕捉が困難な収入であると言えます。

 

そのため、クリニックに税務調査が行われる際には、「自由診療」の収益については売上除外を想定した税務調査が行われるので、常に資料で売上除外が無いことについて説明できるようにしておく必要があります。

 

小口経費の支払いなどの経理処理のポイント

 

1.小口経費の支払

生活費用の現金や窓口現金とは別に、小口経費の支払用にクリニック用の普通預金から小口現金出納帳(小口現金勘定)に定額で資金を用意しておきます。クリニックの規模にもよりますが、20万円から30万円程度となるでしょう。小口経費は、この小口現金出納帳から支払います。

 

なお、翌月又は翌週に使った分だけ普通預金から資金を補充します。

領収証などはスクラップブックなどに整理しておきます。

 

現金管理はしっかりと行い、毎日、金庫の残金をチェックしましょう。

 

クレジットカードは、引き落とし口座を家計費用の通帳として、クレジットカードを使用する際は領収書を発行してもらって小口現金出納帳で精算します(精算した金額は家計費用の通帳に入金しておき、後日の引き落としに備えます)。

 

2.大口の支払

医薬品や診療材料、委託検査料、医療機器などの大口の支払は買掛金管理表などにより管理して、「クリニック用の通帳」から振り込みにより行います。小切手(当座預金)は、会計処理が複雑になりますので、なるべくは避けた方がいいでしょう。

 

もし、小切手を使う場合には、月末締めの翌月10日支払などのように締め日と支払日を決めて、締め日までにきている請求書について支払計画書を作り、各業者に小切手を切り、必ずその合計額を普通預金から当座預金へ移動しておきます。

 

3.自動振替

店舗併用住宅の場合には、電気・ガス・水道・電話などの料金は店舗部分と自宅部分を分けて店舗部分はクリニック用の通帳から自動引き落としとし、自宅部分は家計費用の通帳から自動引き落としとします。分けられない場合には、クリニック用の通帳から自動引き落としとして、決算で自己否認します。

 

4.給与・賞与の支払い

給料・賞与の支払は、なるべくは従業員に「クリニック用の通帳」と同じ支店内に預金口座を作ってもらい銀行振替を利用します。

また、院長の生活費分は、毎月決まった金額をクリニック用の通帳から家計費用の通帳へ振り替えて、院長の生活費や個人的な支払はこちらから行います。

 

最後に

 

以上、簡単なクリニックの経理のポイントのみを記載しております。

 

理屈は分かったけど、本業が忙しくて、細かい経理のことまでやってられない、という開業医の方々は、税務・会計の専門家の税理士や公認会計士に任せてしまっていいと思います。

 

ただ、あまりにもノーガードで任せてしまいますと、税理士が何の処理しているのか分からない、とりあえず税理士が会計処理をしとくと言うけど、それが正しいか、自分にとって有利なのか分からない、ということにもなりまねませんし、実際にそのようなお悩みを持っている開業医の方もよく聞きます。

 

そうならないためにも、経理の基本的なポイントだけでも、開業医の先生方もおさえておいた方がいいと私としてはおすすめしております。(そうすれば、税理士の方も緊張感を持って仕事してくれるので、手を抜いた仕事をしなくなるかもしてません。)

 

また、「確定申告手続の流れ」も、順を追って解説するページも作成していますので、自身で確定申告をする予定の先生方は、よければこちらもご参考ください。

 

確定申告と納税の手順の流れ【個人事業主向け】会計士が解説

 

 

宮崎県都城市で、クリニックの会計・税務・運営について相談したいことがあれば、肥田木会計事務所にお問い合わせください。

 

初回相談料は無料のスタンスですので、ちょっと相談したいことがありましたら、気軽に相談していただいて大丈夫です。

雑談程度の相談でも全然かまいません(笑)。

 

問い合わせにつきましては、

お電話:0986-25-3543、または、問合せページ:http://www.hidaki-kaikei.com/contact

をご利用ください。

 

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